半七捕物帳
金の蝋燭
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)老婢《ばあや》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)柳原|堤《どて》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)電灯がふっ[#「ふっ」に傍点]と消えた
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一
秋の夜の長い頃であった。わたしが例のごとく半七老人をたずねて、面白い昔話を聴かされていると、六畳の座敷の電灯がふっ[#「ふっ」に傍点]と消えた。
「あ、停電か」
老人は老婢《ばあや》を呼んで、すぐに蝋燭を持って来させた。
「行灯《あんどう》やランプと違って、電灯は便利に相違ないが、時々に停電するのが難儀ですね」
「それでもお宅には、いつでも蝋燭の用意があるのには感心しますね」と、わたしは云った。
「なに、感心するほどのことでも無い。わたくしなぞは昔者ですから、ランプが流行《はや》っても、電灯が出来ても、なんだか人間の家に蝋燭は絶やされないような気がして、いつでも貯えて置くんですよ。それが今夜のような時にはお役に立つので……」
ふた口目にはむかし者というが、明治三十年前後の此の時
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