それがなぜ世間へ知れずにいたかというに、その大名も元来秘密の仕事ですから、たとい途中でどんな事があろうとも、表向きの詮議は出来ません。江戸の幕府の役人たちに蝋燭を贈ったなぞということが世間へ知れては、その屋敷の大迷惑になりますから、何事も泣き寝入りにして、闇から闇へ葬るのほかはない。それを承知で、持ち逃げをした奴もあるわけです。昔はそういうたぐいの秘密がいろいろありました。いや、今日でも『珍物』なぞという贈り物があるとか聞いていますが……。はははははは。
 ついでに申し上げますが、御金蔵やぶりの藤十郎と富蔵は、安政四年二月二十六日に召し捕られ、五月十三日に千住の小塚ッ原で磔刑《はりつけ》になりました。わたくしも随分これには頭を痛めたんですが、運がないのか、知恵がないのか、他人《ひと》に巧を奪われて、この捕物にはいっさい係り合いがなかったのを今でも残念に思っています」



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(四)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年8月20日初版1刷発行
入力:tatsuki
校正:しず
1999年12月13日公開
2004年3月1日修正
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