ずにいたが、あれから四日目の朝、近所のお鎌という婆さんが墓まいりに行って、寺内の古井戸の水を汲もうとする時、彼女は恐ろしいものを発見した。
 お鎌は蒼くなって表へ逃げ出した。そうして、近所へ触れて歩いたので、村の者らも早速に駈け着けると、竜濤寺の古井戸から人間の死屍《しかばね》が続々と発見された。住職の全達と納所の全真、そのほかに虚無僧すがたの男二人、あわせて四人の亡骸《なきがら》が引き揚げられて、秋の日に晒されたのを見た時には、どの人もみな顔色を変えた。
 この急報におどろかされて、村役人も駈けつけた。他の村人も集まって来た。四人の死骸を一度に発見したなどというのは、この村は勿論、江戸の市内にもめったに聞いたことのない椿事であるから、人々はいたずらに慌て騒ぐばかりであったが、それでも型の如く届け出て、型のごとくに検視を受けた。
 僧ふたりの亡骸は住職と納所に相違なかったが、ほかの二人の虚無僧は何者であるか判らなかった。虚無僧である以上、普化宗《ふけしゅう》本寺の取名印《しゅめいいん》、すなわち竹名《ちくめい》を許されたという証印の書き物を所持している筈であるが、彼らは、尺八、天蓋、袈
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