[#「おこ」に傍点]付いているじゃありませんか」と、松吉は小声で云った。
「道楽者と云ったところで、安い野郎だ。あいつ案外の正直者だから、なにかの囮《おとり》になるかも知れねえ。まあ、当分は放し飼いだ」
途中で松吉に別れて、半七は再び緑屋の門《かど》に立った。
「又お邪魔に出ました。日の暮れるまで往来に突っ立ってもいられねえから、軒下を借りに来ました。どうぞ構わねえで置いて下さい」
勿論それはひと通りの挨拶で、緑屋でも構わずに捨てて置く筈はなかった。半七は愛想よく迎えられて再び二階の小座敷へ通されると、甚右衛門もあとから上がって来た。
「どうだね。お前さんの眼利きは……。たいてい見当は付いたかね」
「おさき真っ暗で眼も鼻も利きません」と、半七は笑った。「なにしろ日が暮れてから、もう一度出直して見たいと思います」
「じゃあ、ゆっくり休んで行きなせえ。古寺へ化け物の詮議に行くのは、やっぱり夜の仕事だろうな」と、甚右衛門も笑った。「そこで、どうだね。元八の奴を呼びにやろうか」
「元八は来ましたよ」
「寺へか。お前さん達のあとを尾けて……。はは、馬鹿野郎め、定めし嚇かされたろうな」
「嚇か
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