お鎌から一歩の金を貰っただけで、ほかには何の係り合いも無いと弁解した。
「おめえは其の後にお鎌に逢ったか」と、半七は又|訊《き》いた。
「ここの井戸から四人の死骸が揚がったという評判を聞いて、わたしもすぐに駈け着けてみると、お鎌も来ていました。なにしろ最初に死骸を見付けた本人ですから、名主さん達からいろいろのことを訊かれていましたが、わたしは何だか気が咎めるので、なるたけ後の方へ引きさがって、遠くから覗いていました。その時ぎりでお鎌に逢ったことはありません」
「死骸を見つけたのは、十五夜から四日目だというじゃあねえか。そのあいだに、一度もお鎌に逢わなかったのか」
「逢いませんでした」
この時、庭口から松吉が大急ぎで帰って来た。八月の秋の日はまだ暑いので、彼は襟もとの汗をふきながら云った。
「親分、お鎌はいませんよ」
「家《うち》にいねえのか」
「荒物屋の店は空明《がらあ》きで、何処へ出て行ったのか近所の者も知らねえと云うのです。なにしろ、こっちの方も気になるので、案内の男だけを見張りに残して置いて、わっしは一旦引っ返して来たのですが、どうしましょう」
「どうにも仕方があるめえ」と、半
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