んの話を聞くと、おめえは十五夜の晩に田圃《たんぼ》をあるいていると、頬かむりをした若い女に逢って、それを神明さまの近所まで送って行く途中で、おめえがその女に悪ふざけをした。そこへ二人の虚無僧が出て来て、おめえはひどい目に逢わされた。話の筋はまあそうだね。それからおめえは三人のあとを付けて行くと、三人はこの寺へはいった……。そこで、おめえはどうした」
「帰りました」と、元八は低い声で答えた。
「寺へはいるのを見届けただけで、すぐに帰ったのかえ」
「帰りました」と、元八は又答えた。
「真っ直ぐに帰ったかえ。確かに帰ったかえ」と、半七は相手の顔を睨むように見た。「緑屋の爺さんは欺されても、おれは欺されねえ。おめえは何処までも三人のあとを尾《つ》けて、この寺のなかまではいり込んだろう。隠すと、おめえの為にならねえぜ。正直に云え。それから何か立ち聴きでもしたか」
「まったく直ぐに帰りましたので……。あとの事は知りません」
「こいつ、道楽者のくせにあっさりしねえ野郎だな。やい、元八。てめえはあのお鎌という婆さんから鼻薬を貰って、口を拭《ぬぐ》っているのだろう。くどくも云うようだが、緑屋の爺さんと此
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