ういう関係があるのか、それを探り知りたいような一種の好奇心も手伝って、元八は又そっとあと戻りをした。森と云っても、木立に過ぎないような浅い森である。土地の勝手をよく知っている元八は、続いてその森のなかへ踏み込んで行くと、三人はもう出ぬけていた。
「足の早い奴らだ」
 元八も足を早めて、うす暗い森を出ぬけると、その行く手に男二人と女ひとりのうしろ影が明るい月に照らされて見えた。彼らは神明の社《やしろ》のある徳住寺の方角へむかって行くらしい。若い女と虚無僧とが今頃どうして神明の社へ詣るのかと、元八の好奇心はますます募ったが、何分にも月のひかりに妨げられて、彼は三人に近寄ることが出来なかった。もし覚られたら、又どんな目を逢うかも知れないという恐れがあるので、彼は半町ほどの距離を置いて、見え隠れに慕ってゆくと、三人は途中から更に爪先《つまさき》をかえて、徳住寺から少し距《はな》れた古寺の門前に足を止めた。
 寺はかの竜濤寺であった。

     二

 その翌日から竜濤寺の住職と納所が托鉢《たくはつ》に出る姿を見るものが無かった。しかも碌々に檀家もない寺であるから、村の者らもさのみに気にも留めずにいたが、あれから四日目の朝、近所のお鎌という婆さんが墓まいりに行って、寺内の古井戸の水を汲もうとする時、彼女は恐ろしいものを発見した。
 お鎌は蒼くなって表へ逃げ出した。そうして、近所へ触れて歩いたので、村の者らも早速に駈け着けると、竜濤寺の古井戸から人間の死屍《しかばね》が続々と発見された。住職の全達と納所の全真、そのほかに虚無僧すがたの男二人、あわせて四人の亡骸《なきがら》が引き揚げられて、秋の日に晒されたのを見た時には、どの人もみな顔色を変えた。
 この急報におどろかされて、村役人も駈けつけた。他の村人も集まって来た。四人の死骸を一度に発見したなどというのは、この村は勿論、江戸の市内にもめったに聞いたことのない椿事であるから、人々はいたずらに慌て騒ぐばかりであったが、それでも型の如く届け出て、型のごとくに検視を受けた。
 僧ふたりの亡骸は住職と納所に相違なかったが、ほかの二人の虚無僧は何者であるか判らなかった。虚無僧である以上、普化宗《ふけしゅう》本寺の取名印《しゅめいいん》、すなわち竹名《ちくめい》を許されたという証印の書き物を所持している筈であるが、彼らは、尺八、天蓋、袈
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