こべに云い負かされて、そばで見ていてはらはら[#「はらはら」に傍点]することがあります。
 それから罪人の横っ面をなぐったりする。今からみれば乱暴かも知れませんが、玄人は度胸が据《すわ》っているから、いよいよいけないと思えば素直に恐れ入りますが、素人にはそれがなかなか出来ない。いえ、強情で云わないのではない。云うことが出来ないのです。それも軽い罪ならば格別、ひとつ間違えば自分の首が飛ぶというような重罪が発覚したかと思うと、大抵の素人はぼうっとなってしまって、早くいえば酒に酔ったようになって、なんにも云えなくなってしまうのです。といって、いつまでも黙らせて置いては埒《らち》があきませんから、そういう時には気つけの水を飲ませてやるか、さもなければ横っ面を引っぱたいてやるのです。そうすると、はっ[#「はっ」に傍点]と眼が醒めたようになって、初めて恐れ入るというわけです。たとい悪いことをしても、むかしの人間はみな正直だから、調べる方でもこんなことをしたのですが、今の人間は度胸がいいから、こんな世話を焼かせる者もありますまいよ」



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(四)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年8月20日初版1刷発行
入力:tat_suki
校正:小林繁雄
1999年3月25日公開
2004年3月1日修正
青空文庫作成ファイル:
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