ど」に傍点]橋のわきで落ち合うことになっていたように聴いていると彼女は云った。してみると、藤吉は何かの都合で女房をあざむいて、自分ひとりで夜釣りに出ていたものかとも思われる。それにしても越前屋の亭主が鯉を釣り損じて川に落ちたなどという出たらめをなぜ云ったのか。そうして、自分がなぜ入水《じゅすい》したのか。又かの怪しい女は何者か、その女と藤吉とのあいだに何かの関係があるのか無いのか、役人たちもその判断に苦しんだ。
「どうだ、半七。あらましの本読みはこの通りだが、これだけじゃあ芝居も幕にならねえ。なんとか工夫して、めでたく打ち出しまで漕ぎ付けてくれ」と、八丁堀同心の村田良助が半七を呼んで云った。
「かしこまりました。まあ、なんとかこじつけてみましょう。しかし御寺社《おじしゃ》の方はよろしいのでございましょうな」
寺の門前地は寺社奉行の支配で、町方《まちかた》の係りではない。そこへみだりに踏み込むことは出来ないので、半七が一応の念を押すと、良助はうなずいた。
「それは寺社の方から云って来たのだから、仔細はねえ。どこまでも踏み込んで片付けてくれ」
四
「さあ、これからの筋道を順
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