半七捕物帳
一つ目小僧
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)四谷伝馬町《よつやてんまちょう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)森川|宿《しゅく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)あっ[#「あっ」に傍点]
−−

     一

 嘉永五年八月のなかばである。四谷伝馬町《よつやてんまちょう》の大通りに小鳥を売っている野島屋の店さきに、草履取りをつれた一人の侍が立った。あしたの晩は十五夜だというので、芒売《すすきう》り[#「芒売《すすきう》り」は底本では「芒売《すすき》り」]を呼び込んで値をつけていた亭主の喜右衛門は、相手が武家とみて丁寧に会釈《えしゃく》した。野島屋はここらでも古い店で、いろいろの美しい小鳥が籠のなかで頻りに囀《さえず》っているのを、侍は眼にもかけないような風で、ずっと店の奥へはいって来た。
「亭主。よい鶉《うずら》はないか」
「ござります」と、喜右衛門は誇るように答えた。かれは半月ほど前に金十五両の鶉を手に入れていたのであった。
「見せてくれぬか」
「はい、穢《きたな》いところでござ
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