菊は死罪という恐ろしい申し渡しを受けたので、当の山城屋は勿論、世間ではびっくりした。
 したがって、それに就いていろいろの風説が伝えられたが、その真相はこうであった。お菊は後妻で、ことし八つになる惣領息子をふだんから邪魔物にしていた。世間によくある習いで、彼女はおそろしい継母《ままはは》根性からその惣領息子を亡きものにしようとたくらんで、子供の玩具として蛙の水出しを買って来た。水出しの一端を水の中へ※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28] し込んで置いても、なかなか自然に水をふき出すものではない。俗に吸い出しをかけると云って、最初に一方の蛙の口へ人間の口をあてて水を吸い出してやらなければならない。一度そうすると、それからは自然に水を噴き出すようになる。それであるから、この水出しをもてあそぶものは必ず一度は自分の口で蛙の口を吸わなければならない。水の出ようの悪いときには、二度も三度も蛙の口を吸うことがある。これまで説明すれば、もう委《くわ》しく云う必要はあるまい。お菊は陶器の蛙に一種の毒薬を塗りつけて置いたのであった。
 しかし彼女はそれを継子《ままこ》に
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