師匠、すこし頼みてえことがある。まさかに俺が行って一々調べるわけにも行かねえから、お前これから二階へ行って、おまえが手拭を配った覚えのあるおかみさん達を一巡訊いて来てくれ」
「なにを訊いて来るんです」
「手拭をお持ちですかと云って……。娘や子供には用はねえ。鉄漿《かね》をつけている人だけでいいんだ。もし手拭を持っていねえと云う人があったら、すぐに俺に知らせてくれ」
 光奴はすぐに二階へ行った。

「お話が長くなりますから、ここらで一足飛びに種明かしをしてしまいましょう」と、半七老人は云った。
「師匠はそれから二階へ行って、見物を一々調べたが、どうも判らないんです。尤《もっと》も師匠だって遠慮しながら調べているんだから埒《らち》は明きません。二階をしらべ、楽屋を調べても、どうも当りが付かないもんですから、今度はわたくしが自分で田原屋の女中を調べることになったんです。田原屋には四人の女中がありまして、その女中|頭《がしら》を勤めているのはおはま[#「はま」に傍点]という女で、三十一二で、丸髷に結って鉄漿《かね》をつけていました。これはここのうちの親類で、手伝いながら去年から来ていたんです。
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