、冠蔵も死んでいる、紋作も死んでいる。喧嘩の相手が両成敗になった以上は、猶更しようがないと諦めて、いつもの植木屋に云い付けて、そっと香奠を持たせてよこした。黒崎は自分にも落度があるので、蔭ながらその葬式を見送りに来た。というわけで、何もかもすっかり判ったろう。おれがこれだけのことを突き留めたのは、送葬《とむらい》の日に子分の庄太の奴が植木屋のあとを尾《つ》けて行って、その居どころを確かに見きわめて来たので、おれがあとから乗り込んで行って、奴を嚇かしてひと通りのことを吐かせた上で、また出直して行ってその黒崎という侍にも逢った。侍は正直にみんな打ち明けて、屋敷の恥、自分の恥、何事も口外してくれるなと手をさげて頼むから、おれも承知して帰って来たんだ。さあ、こう判って見りゃあ誰も怨むこともあるめえ。こうして仏の位牌のまえで俺が云うんだから嘘はねえ」
この長い話をしてしまって、半七は新らしい位牌のまえに線香を供えた。
「お話はまあこれぎりなんですがね」と、半七老人はひと息ついて云った。「もう一つ不思議なことは、紋作と冠蔵が一度に居なくなったので、芝居の方では急に代り役をこしらえて、いよいよ十
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