、赤い御飯にお頭付《かしらつ》きの一|尾《ぴき》も食べるというくらいのことです。この前日に京都の松茸を頂いたのは有難い。おかげで明晩の御料理が一つ殖《ふ》えました。そういう次第で、なんにも御馳走はありませんけれども、あなたも遊びに来て下さいませんか」
「ありがとうございます。是非うかがいます」
 あくる日の夕方から私は約束通りに出かけてゆくと、ほかのお客様もみな揃っていた。そのうちの三浦老人は、大久保に住んでいて、むかしは下谷辺の大屋《おおや》さんを勤めていた人である。わたしは半七老人の紹介で、ことしの春頃からこの三浦老人とも懇意になって、大久保の家へもたびたび訪ねて行って「三浦老人昔話」の材料をいろいろ聴いていたので、今夜ここで其の人と逢ったのは嬉しかった。
 そのほかは半七老人の息子と、その細君と娘と男の児との四人連れであった。息子はお父さんと違って堅気一方の人らしく、細君と共に始終行儀よく控えているので、席上の座談は両老人が持ち切りという姿で、わたし達は黙ってその聴き手になっていると、半七老人は膳の上の松茸を指さして、これは私から貰ったのだと説明したので、息子たちからあらためて礼
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