半七捕物帳
半七先生
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)額《がく》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)嘉永|庚戌《かのえいぬ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)なあ[#「なあ」に傍点]
−−

     一

 わたしがいつでも通される横六畳の座敷には、そこに少しく不釣合いだと思われるような大きい立派な額《がく》がかけられて、額には草書《そうしょ》で『報恩額』と筆太《ふでぶと》にしるしてあった。嘉永|庚戌《かのえいぬ》、七月、山村菱秋書という落款《らくかん》で、半七先生に贈ると書いてあるのも何だかおかしいようにも思われた。この額のいわれを一度きいて見ようと思いながら、いつもほかの話にまぎれて忘れていたが、ある時ふと気がついてそれを言い出すと、老人は持っている煙管《きせる》でその額を指しながら大きく笑った。
「はは、これですか。ははははは。どうです、半七先生が面白いじゃありませんか。これでも先生ですぜ。この額をかいてくれたのは、神田の手習い師匠の山村小左衛門という人で、菱秋《りょうしゅう》というのは其
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