間になって、万引や巾着切《きんちゃっき》りや板の間稼ぎなどをやっていたんですが、下町《したまち》の方でだんだんに人の眼について来たので、このごろは武家の娘らしい姿に化けて、専ら山の手の方を荒しあるいていたんです。ところで、その当日、三人が連れ立って新屋敷を通りかかると、例の蛇の一件で大勢の人があつまっている。三人もそれを覗いているうちに、お大が小声でこんなことを云い出したそうです。
『どんな玉が這入っているか知らないが、あの蛇の中へ手を突っ込むことは出来まいね』
『なに、訳《わけ》はないよ』と、おとくは平気で笑っていた。
『おまえさん、きっと出来るかえ』と、お大とおもよが念を押すと、おとくはきっと出来ると強情を張ったので、いわば行きがかりの意地ずくで、もしお前がほんとうにあの蛇のなかへ手を突っ込んで見せたらば、おまえをあたし達の仲間の姐御《あねご》にすると二人が云い出すと、おとくはすぐに出て行って、平気で蛇のとぐろのなかへ手を突っ込んで、例の切髪をつかみ出したので、なんにも知らない見物人は勿論、仲間の二人は流石《さすが》にびっくりしたんですが、人に覚《さと》られないようにみんな分かれ分かれにそこを立ち去ったので、誰も三人連れとは気がつかなかったんです。しかし見物人が蛇の方に気をとられている油断を見すまして、三人ながらそれぞれに巾着切りを働いていたというんですから、抜け目のないこと驚きます。
おとくは掴み出した切髪を途中の川へ捨ててしまって、そこで自分の手を洗って、さてそれから二人にむかって、さあ約束通りにこれから自分を姐御にするかと云い出すと、おもよとお大は忌《いや》だと云う。それでは約束が違うと云う。不良少女三人はさんざん口ぎたなく云い合いながら、その晩はまず無事に帰ったんですが、あくる日も又それで喧嘩をはじめて、おとくがそんならお前も蛇を掴んでみろ、いくら口惜《くや》しがってもあたしの真似は出来まいと云うと、こっちの二人も行きがかりで、何の、あたし達だって掴んでみせると云う。なにしろお転婆《てんば》同士だから堪まりません。三人はその晩、また出直してあの空屋敷の門前へ忍んで来たんですが、きのうの蛇は勿論いる筈はないので、そんならこの屋敷の庭へ忍び込んで、見つけ次第に蛇をつかまえるということになって、三人はどこから這入ろうかと窺っているうちに、お大はおとくの隙をみ
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