に思いあたることがあるので、ぬき足をして裏口へまわってゆくと、女中はその骨のようなものを掃溜めへなげ込んで、すぐに台所へはいった。
半七はそっと掃溜めをのぞいてみると、魚の骨はみな生魚《なまうお》であるらしかった。犬や猫がこんなに綺麗に生魚を食ってしまうのは珍らしい。更に注意して窺うと、掃溜めの底にはやはり生魚の骨らしいのが重なっていた。
半七は引っ返して元の井戸ばたへ来ると、瓦屋の女房らしい女が洗濯物をかかえて出て来たので、道を訊《き》くような風をして如才《じょさい》なく話しかけて、となりの家ではどこの魚屋《さかなや》から魚を買っているかということを半七は聞き出した。それは半町ほど離れた魚虎という店で、ちょっとした料理も出来ると女房は口軽に話しかけた。
魚虎へ行って、半七は更にこんなことを聞き出した。おとわの家はお千代という女中と二人暮らしで、深川の木場の番頭を旦那にしているということで、なかなか贅沢に暮らしているらしい。旦那が来た時には、いつでも三種四種《みしなよしな》の仕出しを取る。そのあいだにも毎日なにかの魚を買うが、三月の末頃からは生魚の買物が多い。別に人もふえた様子は
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