だそうです。だが、その中でたった一人かかさずに来る奴があります」
「紙屋の息子か」
「あ、源次の奴ほじくり出しましたかえ。あいつ油断がならねえ」と、多吉は鼻毛をぬかれたような形で少してれ[#「てれ」に傍点]た。「じゃあ、その方は大抵御承知ですね」
「だが、まあ話してみろ」
 多吉の報告も源次とあまり違わなかった。そうして、紙屋の久次郎は色仕掛けでたくさんの祈祷料をまきあげられているに相違ないと云った。
「そうだろう。誰が考えても、落ち着くところは同じことだが、ただ困るのは徒党の奴らだ」と、半七は云った。「夜なかに祈祷をたのむ振りをして、姿をかえて入り込むのじゃねえかと思うが、これも此の頃はちっとも来ねえというのじゃあ仕方がねえ。行者の奴らをつかまえるのは何日《いつ》でも出来る。あいつ等はまあ当分は生簀《いけす》にして置いて、ほかから来る奴らに気をつけろ」
 多吉は承知して帰った。
 それから半月ほど経ったが、多吉も源次も思わしい成績をあげることが出来なかった。その報告はいつも同じことで、夜になっては紙屋の息子のほかに誰も出這入りするものは無いとのことであった。行者の家でも女中が買物に出
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