。
かれが奉納物を持参したときに、行者は久次郎の顔をつくづく眺めながら云った。
「はて因果はおそろしい。おふくろ様ばかりでなく、おまえにも同じ祟りが付きまとうています。その禍いの来たらぬうちに、早くお祓《はら》いをなされてはどうでございます」
あくまでかれを尊崇している久次郎に異存のあろう筈はなかった。かれはその日からすぐに祈祷をたのむことになったが、行者は一七日《いちしちにち》のあいだ日参《にっさん》しろと云った。久次郎は勿論その指図通りにした。初めの三日は昼のうちに通っていたが、四日目からは奥の一と間で秘密の祈祷をうけることになって、夜ふけを待って通っていた。しかし其の一七日を過ぎても、かれの祈祷は終らなかった。行者は更に一七日の参詣をつづけろというと、久次郎はやはりその指図にそむかなかった。かれは毎晩かかさず通いつづけていた。
行者を信仰している伊勢屋では、久次郎の日参を怪しまなかった。母のお豊はむしろ我が子をすすめて出してやるほどであったが、久次郎の参詣が初めの一七日が過ぎて更に二七日となり、又もや三七日となり、四七日とつづくようになったので、店の番頭どもは少し不安を感じ
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