女が二人いるそうですが、台所働きはこのごろ雇った山出しの奉公人で、祈祷の方のことは一切《いっさい》その男と小娘とが引き受けてやっているんだそうです」
 多吉の報告はそれだけであった。

     二

 あくる朝になって源次が来た。
「親分。多吉さんの方で面白いことが手に入りましたかえ」
「面白いというほどのことも判らねえが、まあ少しばかり眼鼻をつけて来た。そこで、おめえの方はどうだ」と、半七はすぐに訊いた。
「わたくしの方でも取り立ててこうというほどの種は挙がりませんが、唯ひとつ、妙なことを聞き出しましたよ。葺屋町《ふきやちょう》に炭団《たどん》伊勢屋という大きい紙屋があります。何代か前の先祖は炭屋をしていたとかいうので、世間では今でも炭団伊勢屋といっているんですが、地所|家作《かさく》は持っていて、身上《しんしょう》はなかなかいいという評判です。その伊勢屋の息子が此の頃すこし乱心したようになって……。息子は久次郎といって、ことし二十歳《はたち》になるんですが、俳優《やくしゃ》の河原崎権十郎にそっくりだというので、権十郎息子というあだ名をつけられて、浮気な娘なんぞは息子の顔みたさに、
前へ 次へ
全36ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング