自然にその形をあらわしたのであろう。自分にもよく判らないが、これは寺の秘仏として大切に保管されているものであるらしい。なんでも遠い昔に異朝から渡来したもので、その胎内には更に小さい黄金仏が孕《はら》ませてあると云いつたえられている。自分は九つの年から寺に入って、足かけ五年のあいだに三度しか拝んだことはないが、これはどうもその仏像であるらしいと彼は説明した。
 それほど大切の秘仏を住職がなぜむやみに持ち出したか、それが半七にも判らなかった。英俊にも判らなかった。
「しかしこれをみると、狐がお住持に化けていたなどというのは嘘です」と、英俊は云った。「わたしも最初から疑わしいと思っていましたが、もし狐ならばこういうものを持ち出す筈がありません。狐や狸は尊い仏を恐れる筈です」
 それは如何にも仏弟子らしい解釈であった。半七は又それと違った解釈で、時光寺の住職の正体が狐でないことを確かめた。
「お住持は……お師匠さまは……」と、英俊は俄かに泣き出した。
「おい。どうした、どうした」と、半七はかれの肩に手をかけた。
 英俊はその肩をゆすぶって泣きつづけた。かれの涙は法衣の袖にほろほろとこぼれて、大
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