《いらいら》したような気分になって、今まで可愛がっていた犬などにも眼をくれず、犬の方から尻尾《しっぽ》をふって近寄っても、怖い顔をして追っ払うという風になった。そこへ例の一件が出来《しゅったい》したもんですから、それが又何だか仔細ありげに云い触らされるようになったのです。一体この事件にかぎらず、わたくし共の方ではよくこんな事でいろいろ思い違いや見込み違いをすることがあります。無事の時ならばなんでもないことが、大仰《おおぎょう》に仔細ありげに考えられますから、よっぽど注意しないといけません。探索という上から見れば、髪の毛一本でも決して見逃がしてはなりませんが、所詮《しょせん》は大体のうえに眼をつけて、それから細かいところへ踏《ふ》み込んで行かないと、前にも云ったような、飛んだ見込み違いで横道へそれてしまうことがありますよ」
底本:「時代推理小説 半七捕物帳(二)」光文社文庫、光文社
1986(昭和61)年3月20日初版1刷発行
入力:tatsuki
校正:山本奈津恵
1999年9月22日公開
2004年2月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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