半七捕物帳
三河万歳
岡本綺堂
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)門松《かどまつ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)鎌倉|河岸《がし》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ほっ[#「ほっ」に傍点]としたように
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一
ある年の正月、門松《かどまつ》のまだ取れないうちに赤坂の家《うち》をたずねると、半七老人は格子の前に突っ立って、初春の巷《ちまた》のゆきかいを眺めているらしかった。
「やあ、いらっしゃい。まずおめでとうございます」
いつもの座敷へ通されて、年頭の挨拶が式《かた》のごとくに済むと、おなじみの老婢《ばあや》が屠蘇の膳を運び出して来た。わたしがここの家で屠蘇を祝うのは、このときが二度目であったように記憶している。今とちがって、その頃は年礼を葉書一枚で済ませる人がまだ少なかったので、表には日の暮れるまで人通りが絶えなかった。獅子の囃子《はやし》や万歳の鼓《つづみ》の音も春めいてきこえた。
「麹町辺よりこちらの方が賑やかですね」と、わたしは云った。
「そうでしょうね」と、老人はうなずいた
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