者をかかえて行き倒れになっている。どう考えても、変じゃねえか」
「変ですとも……。打っちゃって置くと、よその仲間に飛んだ鼻毛を抜かれますぜ」
「そんなことがねえとも云われねえ」
 ふたりは立ち話で相談をきめた。亀吉はおなじ子分の善八と手分けをして、亀吉は因果者師の方を調べる。善八は万歳の群れをあさる。こうして両方から洗いあげて行ったら、何かそこに一つの手がかりを見つけ出すであろうとのことであった。
「じゃあ、頼むぜ」
 亀吉にたのんで、半七は三河町の家へ帰った。その夜の五ツ(午後八時)過ぎになって、亀吉は寒そうな顔を三河町へ持って来た。なにぶんにも自分ひとりでは手が廻らないので、彼はほかの子分どもにも加勢をたのんで、江戸じゅうの香具師や因果者師をそれからそれへと詮議したが、この頃に鬼っ児などを取り扱った者もなかった。鬼っ児などを取られた者もなかった。香具師仲間の詮議の蔓《つる》はもう切れた、と、亀吉は落胆したように話した。
「そうすると、因果者には何もかかり合いのねえ素人《しろと》の餓鬼かな」と、半七は考えながら云った。
「まあ、そうでしょうね。香具師の仲間で猫の児をなくしたとか云って力を落している奴があるそうですが、猫の児じゃしようがありませんからね」
「そうよ、けさのは確かに人間の子だ。猫の児じゃあねえ」
 云いかけて半七は又かんがえていた。行き倒れの才蔵がふところに抱えていたのは、決して猫の児ではなかった。いくら因果者の鬼っ児でもそれが確かに人間の子である以上、それを畜生の児と一緒に見なすわけには行かなかった。しかしその一緒に見なされないものを一緒に結びつけて考えるのが、自分たちの眼の着けどころであると半七は思った。人間の子と猫の児と、そこにはどういう不思議の因縁がからまっているかということを彼はいろいろに考えてみた。
「そこで、そのなくしたとかいう猫の児はなんだ。金眼《きんめ》か銀眼か、それとも尻尾《しっぽ》が二、三本あるとでもいうのか」
「それは聞きませんでした。猫の児じゃあしようがねえと思ったもんですから」と、亀吉はきまりが悪そうに頭を掻いた。「すると、その鬼っ児と猫の児と何か係り合いがあるんでしょうか」
「そりゃあまだ判らねえ。が、それがどうも気になる。御苦労だがもう一度行って、その猫の児をどうしてなくしたのか。その猫はどういう猫か詳しく訊いて来てくれ
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