いたわって、あとから津の国屋へ送ってやるようにと町《ちょう》役人に云いつけておいて、常吉はすぐに津の国屋へ引っ返して行こうとして、文字春の家の前を通りかかると、家の中では何かけたたましい女の叫び声がきこえた。それが耳について思わず立ちどまる途端に、水口《みずくち》の戸を押し倒すような物音がして、ひとりの女が露路の中から転がるように駈け出して来た。つづいて又一人の女が何か刃物をふり上げて追って来るらしかった。常吉は飛んで行って、あとの女の前に立ちふさがると、女は夜叉《やしゃ》のようになって彼に斬ってかかった。二、三度やりたがわして其の刃物をたたき落して、常吉は叫んだ。
「お角、御用だ」
御用の声を聞くと、女は掴まれた腕を一生懸命に振りはなして、もとの露路の奥へ引っ返して駈け込んだ。常吉はつづいて追ってゆくと、逃げ場を失ったものか但しは初めから覚悟の上か、かれはそこにある井戸側に手をかけたと思うと、身をひるがえして真っ逆《さか》さまに飛び込んだ。
長屋じゅうの手を借りて常吉はすぐに井戸の中から女を引き揚げさせたが、かれはもう息が絶えていた。それが文字春の世話で津の国屋へ奉公に行ったお角
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