半七捕物帳
津の国屋
岡本綺堂
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)音《ね》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)赤坂|裏伝馬町《うらてんまちょう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「日+向」、第3水準1−85−25]
−−
一
秋の宵であった。どこかで題目太鼓の音《ね》がきこえる。この場合、月並の鳴物だとは思いながらも、じっと耳をすまして聴いていると、やはり一種のさびしさを誘い出された。
「七偏人が百物語をしたのは、こんな晩でしょうね」と、わたしは云い出した。
「そうでしょうよ」と、半七老人は笑っていた。「あれは勿論つくり話ですけれど、百物語なんていうものは、昔はほんとうにやったもんですよ。なにしろ江戸時代には馬鹿に怪談が流行《はや》りましたからね。芝居にでも草双紙にでも無暗《むやみ》にお化けが出たもんです」
「あなたの御商売の畑にもずいぶん怪談がありましょうね」
「随分ありますが、わたくし共の方の怪談にはどうも
次へ
全72ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング