ふたりは土に頭を摺りつけた。鳥さしの老人も涙をながして半七を拝んだ。
 それから二日経って、鳥さしの老人は神田の半七の家をたずねて来て、くり返して礼を云った。そうして、本人の光井金之助も、叔父の弥左衛門もあらためて礼に来ると云った。
「なに、わたしはお役だから仕方がねえ。そんなに恩に被《き》せることもねえのさ」と、半七は答えた。「それにしても、おまえさんはどうしてそんなに光井さんの為に心配しなさるんだ。なにか格別に心安いのかえ」
「はい、おまえさんですから申し上げますが、実はわたくしには十八になる娘がございますので……」
「十八になる娘……。おまえさんの娘なら美しかろう。それだのに、光井さんは品川なんぞへ泊るから悪い。これもみんな娘の思いだと云ってやるがいいや。ははははは」
 半七は大きい声で笑った。



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(二)」光文社文庫、光文社
   1986(昭和61)年3月20日初版1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:おのしげひこ
1999年7月19日公開
2004年2月29日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全5ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング