、吉見とお杉はゆうべここの家で逢った。けさになって吉見が帰ろうとするときに、一羽の鷹が降りて来て銀杏のこずえに止まったが、その足の緒が枝にからんで再び飛ぶことが出来なくなったらしい。それを見付けた吉見はすぐに梢によじのぼって、平生手馴れているだけに、無事にその鷹を捕えて来た。
それを郡代の屋敷へ届け出るか、または雑司ヶ谷へ持って帰るか、二つに一つの処置を取れば別に何事もなかったのであるが、そこで彼は辰蔵から或る知恵を吹き込まれた。この村に鷹を欲しがっている者がある。ないしょで彼に売ってやれば、大金になる仕事だと勧められて、ふところの苦しい吉見はふとその気になった。買い手はこの村の大地主の当兵衛というもので、わたくしに鷹を飼えば重罪ということを承知していながら、いつの代にも絶えない金持の僭上《せんじょう》から、自分も一度は鷹が飼ってみたいと望んでいることを、辰蔵はかねて知っていたので、とうとう吉見をそそのかして、百五十両でその鷹を当兵衛に売り渡すことに相談を決めたのであった。
その約束をして吉見は帰った。金はあした受け取ることにして、辰蔵はともかくもその鷹を当兵衛の家へ送り届けた。
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