みつ》いでやったことは無かったそうです。つまり吝嗇《けち》なんでしょうね」
「そうすると、山城屋へ因縁《いんねん》を付けさせたのも、みんな女房の指尺《さしがね》なんですね」と、私は云った。
「無論そうです。亭主をけしかけて三百両まき上げさせようとしたのを、徳蔵が百両で折り合って来たもんですから、ひどく口惜しがって毒づいたんですが、もう仕方がありません。まあ泣き寝入りで、いよいよ葬式《とむらい》を出すことになってしまったんです」
「じゃあ、亭主を殺して、その百両を持って伝介と夫婦になるつもりだったんですね」
「と、まあ誰でも思いましょう」と、老人はほほえんだ。「わたくしも最初はそう思っていたんですが、伝介をしめ上げてとうとう白状させると、それが少し違っているんです。伝介はたしかにお留と関係していましたが、今もいう通り、何一つ貢いで貰うどころか、あべこべに何とか彼《か》とか名をつけて、幾らかずつお留に絞り取られていたんだそうです。そんなわけですから、今度の亭主殺しもお留の一存で、伝介はなんにも係り合いのないことがわかりました」
「なるほど、それは少し案外でしたね」
「案外でしたよ。それなら
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