にはとうとう白状して、かみさんがお前さんに一朱もらったことまで話しましたよ。その一朱は財布に入れてあったんじゃありませんか」
「それは紙入れに入れてありましたのでございます。財布は紐をつけて頸にかけて居りました」
「そうですか。そこで今云う通り、なぜ荒物屋の夫婦に口止めをしなすったんだ」
「そんなことが世間にきこえましては外聞が悪いとも存じまして……。しかし財布まで紛失いたしましては、もう内分にも相成りませぬので、お上にお手数をかけて恐れ入ります」
 云いながら、彼は政吉をじろり視た。その妬《ねた》ましげな眼のひかりを半七は見逃がさなかった。これはあくまでも此の事件を物取りのように云い立てて、政吉を罪に落そうとする彼の下心《したごころ》であるらしいと、半七は推量した。若い妾にたいする老人の嫉妬――それが根となってこの訴えを起したものだろうと、半七は鑑定した。
 それにしても彼の訴えがまったくの嘘でないのは、現に政吉が二両の金を拾ったことに因ってあきらかに証拠立てられる。十右衛門の訴えは何処までがほんとうで、政吉の申し立ては何処までがほんとうか、その寸法を測る尺度《ものさし》を見つけ出す
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