うので、その詮議もひとしお厳重であった。十右衛門は自身番へ呼び出されて取り調べをうけることになった。
「半七。よく訊いてみろ」と、与力は一緒について来た半七に云った。
「かしこまりました。もし、道具屋の御隠居さん。お役人衆の前ですからね。よく間違わないように申し立ってくださいよ」と、半七はまず念を押して置いて、ゆうべの顛末《てんまつ》を十右衛門に訊いた。
「一体ゆうべは何処へなにしに行きなすったんだ」
「中の郷|元町《もとまち》の御旗本大月権太夫様のお屋敷へ伜の名代《みょうだい》として罷り出まして、先ごろ納めましたるお道具の代金五十両を頂戴いたしてまいりました」
「元町へ行った帰りなら源森橋の方へかかりそうなもんだが、どこか路寄りでもしなすったか」
「はい。まことに面目もない次第でございますが、中の郷瓦町のお元と申す女のところへ立ち寄りましてございます」
「そのお元というのはお前さんが世話でもしていなさるのかえ」
「左様でございます」
 お元は三年越し世話をしているが、あまり心柄のよくない女で、たびたび無心がましいことを云う。現にゆうべもお元の家へ寄ると、かれの従弟《いとこ》だといって
前へ 次へ
全40ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング