訊いた。
「どうと云ってしようがありませんや」と、老人は笑っていた。「それが心中の片相手ならば下手人《げしゅにん》にもなりますが、女は自分ひとりで死んだんですから、男は別に構ったことはありません。表向きにすれば、お叱りの上で町《ちょう》役人にでも預けられるのですが、それも可哀そうでもあり、面倒でもありますから、その場でわたくしが叱っただけで、まあ堪忍してやりましたよ。そこで可笑《おか》しいのはそれから一と月ほど経ちますとね、お登久と千次郎と仲良く二人づれで私のところへ礼に来ましたよ。男が無事に済んだから好いようなものの、一旦こっちへ引き渡した以上、もし重い科人《とがにん》になったらもう取り返しは付きませんや。それを云ってわたくしがお登久にからかいますと、お登久はまじめな顔をして、女っていうものは皆《み》んなそんなもんですって……。はははははは」



底本:「時代推理小説 半七捕物帳(一)」光文社文庫、光文社
   1985(昭和60)年11月20日初版1刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:菅野朋子
1999年6月11日公開
2004年2月29日修正
青空文庫作成ファイル:
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