すが、この御相談はお断わり申しとう存じます」
 女の眼はじろりと光った。
「なぜ御不承知と云われます」
「失礼ながら御屋敷の御家風が少し気に入りませんから」
「異なことを……。御屋敷の御家風をどうしてお前は御存じか」と、女は膝をたて直した。
「奥勤めの御女中の右の小指に撥胝《ばちだこ》があるようでは、御奥も定めて紊《みだ》れて居りましょうと存じまして」
 女の顔色は急に変った。
「御免くださりませ。たのみます」
 格子の外で案内《あない》を頼む女の声がきこえた。

     四

「お出で遊ばしませ。まあ、どうぞこちらへ」
 入口へ出たお亀がうろうろしながら、新しい女客を奥へ招じ入れようとすると、案内を頼んだ女は少しためらっているらしかった。
「どうやら御来客の御様子でござりますな」
「はい」
「では、重ねてまいりましょう」
 引っ返そうとするらしい女を、半七は内から呼びかえした。
「あの、恐れ入りますが、しばらくお控えくださいまし。ここにあなたの偽物がまいって居りますから、どうか御立ち会いの上で御吟味をねがいとう存じますが……」
 はじめの女はいよいよ顔色を変えたが、彼女はもう度胸を
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