りゃあまあ、一体どうしたもんでございましょう」
お亀は声をふるわせて、いかにも途方に暮れているらしかった。
三
「そりゃあ心配だろうね。今の話の様子じゃあ相手はいずれ大きい御旗本か御大名だろうが、なぜそんなことをするんだろう。茶店の娘だって容貌《きりょう》のぞみで大名の御部屋様にもなれねえとも限らねえが、それなら又そのように打ち明けて召し抱えの相談もありそうなもんだが、少し理窟が呑み込めねえな」と、半七はしばらく考えていた。「それになにしろ肝腎の玉が向うに引き揚げられているんじゃあ、どうにもならねえ。おまけにその屋敷もどこだか判らねえじゃ手の着けようがねえ。困ったもんだ」
半七に腕を組まれて、お亀はいよいよ頼りのないような顔をしていた。
「娘がこれぎり帰って来ませんようだったら、どうしましょう」と、彼女は二、三度も水をくぐったらしい銚子|縮《ちぢみ》で眼を拭いていた。
「だが、その御守殿風の女とかいうのが、いずれ一日二日のうちにまた出直して来るだろうから、ともかくも俺が行って、それとなく様子を見てあげよう。その上で又なんとか好い知恵も出ようじゃねえか」と、半七は慰める
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