さい児がどうして、ふみが来たなんて云うんだろう。判らないね」
「それはわたくしにも判りませんよ」と、半七はやはり笑っていた。「子供が自然にそんなことを云う気遣いはないから、いずれ誰かが教えたんでしょうよ。唯、念のために申して置きますが、あの坊主は悪い奴で……延命院の二の舞で、これまでにも悪い噂が度々あったんですよ。それですから、あなたとわたくしとが押掛けて行けば、こっちで何も云わなくっても、先方は脛《すね》に疵《きず》でふるえあがるんです。こうして釘をさして置けば、もう詰まらないことはしないでしょう。わたくしのお役はこれで済みました。これから先はあなたのお考え次第で、小幡の殿様へは宜しきようにお話しなすって下さいまし。では、これで御免を蒙《こうむ》ります」
二人は池の端で別れた。
四
おじさんは帰途《かえり》に本郷の友達の家《うち》へ寄ると、友達は自分の識《し》っている踊りの師匠の大浚《おおさら》いが柳橋の或るところに開かれて、これから義理に顔出しをしなければならないから、貴公も一緒に附き合えと云った。おじさんも幾らかの目録を持って一緒に行った。綺麗な娘子供の大勢あつ
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