えていました。
「電報をかけてもいけませんか。」
「ですけれども、二日の約束で出てまいりましたのですから。」と、わたくしはあくまでも帰ると言いました。そうして、もしあなたがお残りになるならば、自分ひとりで帰ってもいいと言いました。
「そりゃいけませんわ。あなたがどうしてもお帰りになるならば、わたくしも、むろん御一緒に帰りますわ。」
そんなことで二人は座敷へ帰りましたが、あさの御飯をたべているうちに、とうとう本降りになってしまいました。
「もう一日遊んで行ったらいいでしょう。」と、不二雄さんもしきりに勧めました。
そうなると、継子さんはいよいよ帰りたくないような風に見えます。それを察していながら、意地悪く帰るというのは余りにも心なしのようでしたけれど、その時のわたくしはどうしても約束の期限通りに帰らなければ、両親に対して済まないように思いましたので、雨のある中をいよいよ帰ることにしました。継子さんも一緒に帰るというのを、わたくしは無理にことわって、自分だけが宿を出ました。
「でも、あなたを一人で帰しては済みませんわ。」と、継子さんはよほど思案しているようでしたが、結局わたくしの言う通
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