ているのかと思ったのですが、どうも様子がおかしいので、声をかけても返事がない。揺すってみても正体がないので、それから大騒ぎになったのですが、継子さんはもうそれぎり蘇生《いきかえ》らないのです。お医者の診断によると、心臓麻痺だそうで……。もっとも継子さんは前の年にも脚気になった事がありますから、やはりそれが原因になったのかも知れません。なにしろ、わたくしも呆気《あっけ》に取られてしまいました。いえ、それよりもわたくしをおどろかしたのは、国府津の停車場で出逢った娘のことで、あれは一体何者でしょう。不二雄さんは不意の出来事に顛倒してしまって、なかなかわたくしのあとを追いかける余裕はなかったのです。宿からも使いなどを出したことはないと言います。してみると、その娘の正体が判りません。どうしてわたくしに声をかけたのでしょう。娘が教えてくれなかったら、わたくしはなんにも知らずに東京へ帰ってしまったでしょう。ねえ、そうでしょう。」
「そうです。そうです。」と、人々はうなずいた。
「それがどうも判りません。不二雄さんも不思議そうに首をかしげていました。わたくしにあてた継子さんの手紙は、もうすっかり書いて
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