でも絡み付いていられるので、よんどころなく前にいったような方法を取るのである。

   海和尚、山和尚

 潘《はん》なにがしは漁業に老熟しているので、常にその獲物《えもの》が多かった。ある日、同業者と共に海浜へ出て網を入れると、その重いこと平常に倍し、数人の力をあわせて纔《わず》かに引き上げることが出来た。見ると、網のなかに一尾の魚もない。ただ六、七人の小さい人間が坐っていて、漁師らをみて合掌|頂礼《ちょうらい》のさまをなした。かれらの全身は毛に蔽われてさながら猿のごとく、その頭の天辺だけは禿《は》げたようになって一本の毛も見えなかった。何か言うようでもあるが、その語音《ごいん》はもとより判らない。
 とにかくに異形《いぎょう》の物であるので、漁師らも網を開いて放してやると、かれらは海の上をゆくこと数十歩にして、やがて浪の底に沈んでしまった。土人の或る者の説によると、それは海和尚《かいおしょう》と呼ぶもので、その肉を乾して食らえば一年間は飢えないそうである。
 また、別に山和尚《さんおしょう》というものがある。
 李姓《りせい》のなにがしという男が中州に旅行している時、その土地に大水
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