に一つの旅※[#「木+親」、第4水準2−15−75]《りょしん》が置いてありました。旅※[#「木+親」、第4水準2−15−75]というのは、旅先で死んだ人を棺に蔵《おさ》めたままで、どこかの寺中にあずけて置いて、ある時機を待って故郷へ持ち帰って、初めて本当の葬式をするのでございます。したがって、この旅※[#「木+親」、第4水準2−15−75]に就いては昔からいろいろの怪談が伝えられています。
喬生は何ごころなくその旅※[#「木+親」、第4水準2−15−75]をみると、その上に白い紙が貼ってあって「故奉化符州判女《もとのほうかふしゅうはんのじょ》、麗卿之柩《れいけいのひつぎ》」としるし、その柩の前には見おぼえのある双頭の牡丹燈をかけ、又その燈下には人形の侍女《こしもと》が立っていて、人形の背中には金蓮の二字が書いてありました。それを見ると、喬生は俄かにぞっ[#「ぞっ」に傍点]として、あわててそこを逃げ出して、あとをも見ずに我が家へ帰って来ましたが、今夜もまた来るかと思うと、とても落ちついてはいられないので、その夜は隣りの老人の家へ泊めてもらって、顫《ふる》えながらに一夜をあかしました。
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