中国怪奇小説集
輟耕録
岡本綺堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)明《みん》代も

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)農民|劉義《りゅうぎ》
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 第十一の男は語る。
「明《みん》代も元《げん》の後を亨《う》けて、小説戯曲類は盛んに出て居ります。小説では西遊記《さいゆうき》、金瓶梅《きんぺいばい》のたぐいは、どなたもよく御承知でございます。ほかにもそういう種類のものはたくさんありますが、わたくしは今晩の御趣意によりまして、陶宗儀《とうそうぎ》の『輟耕録』を採ることにいたしました。陶宗儀は天台の人で、元の末期に乱を避けて華亭《かてい》にかくれ、明朝になってから徴《め》されても出でず、あるいは諸生に教授し、あるいは自ら耕して世を送りました。元来著述を好む人で、田畑へ耕作に出るときにも必ず筆や硯をたずさえて行って、暇があれば樹の下へ行って記録していたそうです。この書に輟耕の名があるのはそれがためでしょう。原名は『南村輟耕録』というのだそうですが、普通には単に『輟耕録』として伝わって居ります。この書は日本にも早く渡来したと見えまして、かの、『
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