大地も為に震動する。住民が冬期に田を焼く時、あるいは誤まって彼を焼き殺すことがあるが、他の蛇に比して脂が多いのみである。
乾符《けんぷ》年中のことである。神仙《しんせん》駅に巨きい蛇が出た。黒色で、身のたけは三十余丈、それにしたがう小蛇の太さは椽《たるき》のごとく、柱のごとく、あるいは十|石《こく》入り又は五石入りの甕《かめ》のごときもの、およそ幾百匹、東から西へむかって隊を組んで行く。朝の辰《たつ》どき(午前七時―九時)に初めてその前列を見て、夕の酉《とり》どき(午後五時―七時)にいたる頃、その全部がようやく行き尽くしたのであって、その長さ実に幾里であるか判らない。その隊列が終らんとするところに、一人の小児が紅い旗を持ち、蛇の尾の上に立って踊りつ舞いつ行き過ぎた。この年、山南の節度使の陽守亮《ようしゅりょう》が敗滅した。
会稽山《かいけいざん》の下に※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]冠蛇《けいかんだ》というのが棲んでいる。かしらには雄※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]《おんどり》のような※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]冠《とさか》があって、長さ一尺あまり、胴まわり五、六寸。これに撃たれた者はかならず死ぬのである。
爆身蛇《ばくしんだ》というのがある。灰色で、長さ一、二尺、人の路ゆく声を聞けば、林の中から飛び出して来て、あたかも枯枝が横に飛ぶように人を撃つ。撃たれた者はみな助からない。
黄願蛇《おうがんだ》は長さ一、二尺、黄金のような色で、石のひだのうちにひそんでいる。雨が降る前には牛のように吼《ほ》える。これも人を撃って殺すもので、四明山《しめいざん》に棲んでいる。
異材
唐の大尉《たいじょう》、李徳裕《りとくゆう》の邸へ一人の老人がたずねて来た。老人は五、六人に大木を舁《か》かせていて、御主人にお目通りを願うという。門番もこばみかねて主人に取次ぐと、李公も不思議に思って彼に面会を許した。
「わたくしの家では三代前からこの桑の木を家宝として伝えて居ります」と、老人は言った。「しかしわたくしももう老年になりました。うけたまわれば、あなたはいろいろの珍しい物をお蒐《あつ》めになっているそうでございますから、これを献上したいと存じて持参いたしました。この木のうちには珍しい宝がございまして、上手な職人に伐らせれば、必ずその宝が
前へ
次へ
全8ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング