ことである。山の上に火が起って、烟《けむ》りや火焔《ほのお》が高く舞いあがり、人馬の物音や甲冑《かっちゅう》のひびきが物《もの》騒がしくきこえたので、さては賊軍が押し寄せて来たに相違ないと、いずれも俄かに用心した。張はかれらを迎え撃つために、軍士を率いて駈けむかうと、山のあたりに人影はみえず、ただ無数の火の粉が飛んで来て、人の鎧や馬のたてがみに燃えつくので、皆おどろいて逃げ戻った。
あくる朝、再び山へ登ってみると、どこにも火を焚《た》いたらしい跡はなく、ただ百人あまりの枯れた髑髏《どくろ》がそこらに散乱しているのみであった。
山※[#「操」の「てへん」に代えて「けものへん」、第4水準2−80−51]
宋《そう》(南朝)の元嘉《げんか》年間のはじめである。富陽《ふよう》の人、王《おう》という男が蟹《かに》を捕るために、河のなかへ※[#「竹/斷」、64−3]《やな》を作って置いて、あくる朝それを見にゆくと、長さ二尺ほどの材木が※[#「竹/斷」、64−3]のなかに横たわっていた。それがために竹は破れて、蟹は一匹もかかっていなかった。
そこで、その材木を岸の上に取って捨て、竹の
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