だという。
※[#「けものへん+矍」、23−4]猿
蜀《しょく》の西南の山中には一種の妖物《ようぶつ》が棲んでいて、その形は猿に似ている。身のたけは七尺ぐらいで、人の如くに歩み、且《か》つ善く走る。土地の者はそれを※[#「けものへん+暇のつくり」、第4水準2−80−45]国《かこく》といい、又は馬化《ばか》といい、あるいは※[#「けものへん+矍」、23−7]猿《かくえん》とも呼んでいる。
かれらは山林の茂みに潜《ひそ》んでいて、往来の婦女を奪うのである。美女は殊に目指される。それを防ぐために、ここらの人たちが山中を行く時には、長い一条の縄をたずさえて、互いにその縄をつかんで行くのであるが、それでもいつの間にか、その一人または二人を攫《さら》って行かれることがしばしばある。
かれらは男と女の臭《にお》いをよく知っていて、決して男を取らない。女を取れば連れ帰って自分の妻とするのであるが、子を生まない者はいつまでも帰ることを許されないので、十年の後には形も心も自然にかれらと同化して、ふたたび里へ帰ろうとはしない。
もし子を生んだ者は、母に子を抱かせて帰すのである。しかもその
前へ
次へ
全38ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岡本 綺堂 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング