るうちに、測らずも大赦《たいしゃ》に逢って青天白日《せいてんはくじつ》の身となった。
 その以来、その家では代々その虫の祭祀を続けているのである。

   父母の霊

 劉根《りゅうこん》は字《あざな》を君安《くんあん》といい、長安《ちょうあん》の人である。漢の成帝《せいてい》のときに嵩山《すうざん》に入って異人に仙術を伝えられ、遂にその秘訣を得て、心のままに鬼を使うことが出来るようになった。
 頴川《えいせん》の太守、史祈《しき》という人がそれを聞いて、彼は妖法をおこなう者であると認め、役所へよび寄せて成敗しようと思った。召されて劉が出頭すると、太守はおごそかに言い渡した。
「貴公はよく人に鬼を見せるというが、今わたしの眼の前へその姿をはっきりと見せてくれ。それが出来なければ刑戮《けいりく》を加えるから覚悟しなさい」
「それは訳もないことです」
 劉は太守の前にある筆や硯《すずり》を借りて、なにかの御符《おふだ》をかいた。そうして、机を一つ叩くと、忽ちそこへ五、六人の鬼があらわれた。鬼は二人の囚人を縛って来たので、太守は眼を据えてよく視ると、その囚人は自分の父と母であった。父母はまず
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