焼かないというわけには行きません。しかし折角のお頼みですから、わたしは徐《しず》かに行くことにします。あなたは早くお帰りなさい。日中には必ず火が起ります」
 彼はあわてて家へ帰って、急に家財を運び出させると、果たして日中に大火が起って、一家たちまち全焼した。

   蛇蠱《じゃこ》

 ※[#「榮」の「木」に代えて「水」、第3水準1−87−2]陽《けいよう》郡に廖《りょう》という一家があって、代々一種の蠱術《こじゅつ》をおこなって財産を作りあげた。ある時その家に嫁を貰ったが、蠱術のことをいえば怖れ嫌うであろうと思って、その秘密を洩らさなかった。
 そのうちに、家内の者はみな外出して、嫁ひとりが留守番をしている日があった。
 家の隅に一つの大きい瓶《かめ》が据えてあるのを、嫁はふと見つけて、こころみにその蓋《ふた》をあけて覗くと、内には大蛇がわだかまっていたので、なんにも知らない嫁はおどろいて、あわてて熱湯をそそぎ込んで殺してしまった。家内の者が帰ってから、嫁はそれを報告すると、いずれも顔の色を変えて驚き憂いた。
 それから暫くのうちに、この一家は疫病にかかって殆んど死に絶えた。

  
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