を城門に塗って置くと、老女はそれを見て、おどろいて遠く逃げ去った。
 そのあとへ忽ちに大水が溢れ出て、城は水の底に沈んでしまった。

   眉間尺

 楚《そ》の干将莫邪《かんしょうばくや》は楚王の命をうけて剣を作ったが、三年かかって漸《ようや》く出来たので、王はその遅延を怒って彼を殺そうとした。
 莫邪の作った剣は雌雄一対《しゆういっつい》であった。その出来たときに莫邪の妻は懐妊して臨月に近かったので、彼は妻に言い聞かせた。
「わたしの剣の出来あがるのが遅かったので、これを持参すれば王はきっとわたしを殺すに相違ない。おまえがもし男の子を生んだらば、その成長の後に南の山を見ろといえ。石の上に一本の松が生えていて、その石のうしろに一口《ひとふり》の剣が秘めてある」
 かれは雌剣一口だけを持って、楚王の宮へ出てゆくと、王は果たして怒った。かつ有名の相者《そうしゃ》にその剣を見せると、この剣は雌雄一対あるもので、莫邪は雄剣をかくして雌剣だけを献じたことが判ったので、王はいよいよ怒って直ぐに莫邪を殺した。
 莫邪の妻は男の子を生んで、その名を赤《せき》といったが、その眉間が広いので、俗に眉間尺
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