を通ると、彼は着物の裾《すそ》をかかげて、左右に唾《つば》しながら走りぬけた。ある人がその子細をたずねると、彼は答えた。
「一面に血が流れていて、その臭《にお》いがたまらない」
将軍はそれを聞いて大いに憎んで、遂に彼を殺すことになった。徐は首を斬られても、血が出なかった。
将軍は後に幼帝を廃して、さらに景帝《けいてい》を擁立し、それを先帝の陵《みささぎ》に奉告しようとして、門を出て車に乗ると、俄かに大風が吹いて来て、その車をゆり動かしたので、車はあやうく傾きかかった。
この時、かの徐光が松の樹の上に立って、笑いながら指図しているのを見たが、それは将軍の眼に映っただけで、そばにいる者にはなんにも見えなかった。
将軍は景帝を立てたのであるが、その景帝のためにたちまち誅《ちゅう》せられた。
底本:「中国怪奇小説集」光文社
1994(平成6)年4月20日第1刷発行
入力:tatsuki
校正:もりみつじゅんじ
2003年7月31日作成
2007年7月15日修正
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