はそのまま寝てしまいました。
小僧は三匹の蟹を無理に売付けて行ったのですから、まだ二匹は残っています。これにも毒があるかないかを試してみなければならないのですが、もう夜もふけたので、それもあしたのことにしようといって、台所の土間の隅にほうり出しておきますと、夜の明けないうちに二匹ながら姿を隠してしまいました。死んでいると思っていた蟹が実はまだ生きていて、いつの間にか這い出したのか、それとも犬か猫がくわえ出したのか、それも結局わかりませんでした。
一体、蝦《えび》や蟹のたぐいにはどうかすると中毒することがあります。したがって、その蟹に毒があったからといって、さのみ不思議がるにも及ばないのかも知れませんが、この時には主人をはじめ、家《うち》じゅうの者がみな不思議がって騒ぎ立っているところへ、残った二匹もゆくえ知れずになったというので、いよいよその騒ぎが大きくなりまして、半兵衛は伊助という若い者と一緒に早朝からかの小僧のありかを探しに出ました。
半兵衛は勿論、台所に居あわせた者のうちで誰もその小僧の顔を見知っている者がないのです。浜の漁師の子供ならば、誰かがその顔を見知っていそうなはずであるから、あるいはほかの土地から来た者ではないかというのです。こんな事があろうとは思いもよらず、暗い時ではあり、こっちも無暗に急いでいたので、実はその小僧の人相や風体を確かに見届けてはいないのですから、こうなると探し出すのが余ほどの難儀です。
その難儀を覚悟で、ふたりは早々に出てゆくと、そのあとで主人の増右衛門は陣屋へ行って、坂部与五郎という人の屋敷をたずねました。兄さんの与茂四郎に逢って、ゆうべはお蔭さまで命拾いをしたという礼をあつく述べますと、与茂四郎は更にこう言ったそうです。
「まずまず御無事で重畳《ちょうじょう》でござった。但し手前の見るところでは、まだまだほんとうに禍《わざわ》いが去ったとは存じられぬ。近いうちには、御家内に何かの禍いがないとも限らぬ。せいぜい御用心が大切でござるぞ。」
増右衛門はまたぎょっとしました。なんとかしてその禍いを攘《はら》う法はあるまいかと相談しましたが、与茂四郎は別にその方法を教えてくれなかったそうです。ただこの後は決して蟹を食うなと戒めただけでした。
大好きの蟹を封じられて、増右衛門もすこし困ったのですが、この場合、とてもそんな事をいっ
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