る。それを陰干《かげぼし》にしたのを細かく刻み、更に女の髪の毛を細かく切って、別に一種の薬をまぜて煉り合せる。そうして出来上がった薬を焼くと、うわばみはその匂いを慕って近寄るのであると言った。ただし他の一種の薬だけは、蛇吉も容易にその秘密を明かさなかった。もう一つ、かのうわばみと戦うときに振りまく粉薬というのも、やはりその物に何物かを調合するのであった。たといその秘密をくわしく知ったところで、他人にはしょせん出来そうもない仕事であるから、お年もその以上には深く立入って詮議もしなかった。
夫婦の仲もむつまじく、生活に困るのでもなく、一家はまことに円満に暮らしているのであるが、なぜかこの頃は蛇吉の元気がだんだんに衰えて来たようにも見られた。彼は時々にひとりで溜息をついていることもあった。お年もなんだか不安に思って、どこか悪いのではないかと訊いても、夫は別に何事もないと答えた。しかし、ある時こんな事を問わず語りに言い出した。
「おれもこんなことを長くはやっていられそうもないよ。」
お年は別に現在の職業を嫌ってもいなかったが、老人になったらばこんな商売も出来ないであろうとは察していた。今のうちから覚悟して、ほかの商売をはじめる元手でも稼ぎためるか、廉い田地でも買うことにするか、なんとかして老後の生計《たつき》を考えておかなければなるまいと思って、それを夫に相談すると、蛇吉はうなずいた。
「おれはどうでもいいが、お前が困るようなことがあってはならない。そのつもりで今のうちに精々かせいでおくかな。」
彼はまた、こんなことを話した。
「村の人はみんな知っていることだが、家《うち》のおふくろが死ぬ少し前に、おれは怖しいうわばみに出逢って、あぶなくこっちが負けそうになった。相手が三本目の筋まで平気で乗り越して来た時には、おれももう途方にくれてしまったが、その時、ふっと思い出したのは、死んだ親父の遺言だ。おやじが大病で所詮むずかしいというときに、おれの亡い後、もし一生に一度の大難に出逢ったらば、おれの名を呼んでこういう呪文《じゅもん》を唱えろ。おれがきっと救ってやるよ。しかし二度はならない。一生に一度ぎりだぞと、くれぐれも念を押して言い残されたことがある。おれはそれを思い出したので、半分は夢中で股引をぬいで、おやじの名を呼んで呪文を唱えながら、それをまっ二つに引裂くと、不思議に相
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