家はまるで蜂や、蟋蟀や、小鳥の鳴き声で掩われてしまったように賑やかになった。
二
客の一人がふとした粗相でラザルスの顔のベールをはずした途端に、あっ[#「あっ」に傍点]と声を立てて、今まで彼に感じていた敬虔な魅力から醒めると、事実がすべての赤裸な醜《みにく》さのうちに暴露された。その客はまだ本当に我にかえらないうちに、もうその唇には微笑が浮かんで来た。
「むこうで起こった事を、なぜあなたは私たちにお話しなさらないのです。」
この質問に一座の人々はびっくりして、俄かに森《しん》となった。かれらはラザルスが三日のあいだ墓のなかで死んでいたということ以外に、別に彼の心身に変わったことなぞはないと思っていたので、ラザルスの顔を見詰めたまま、どうなることかと心配しながらも彼の返事を待っていた。ラザルスはじっと黙っていた。
「あなたは私たちには話したくないのですね。あの世というところは恐ろしいでしょうね。」
こう言ってしまってから、その客は初めて自分にかえった。もしそうでなく、こういう前に我にかえっていたら、その客はこらえ切れない恐怖に息が止まりそうになった瞬間に、こんな質問を発する
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